恋愛短編小説

恋愛に関する短編集

忘れられない人はいますか?

 

 

僕は

「運命の人は2人いる」

という言葉を信じているタイプの人間だ。

 

 

「死ぬ前に思い出すだろうなって人いる?」

 

 

彼女に聞かれ、真っ先に思い浮かべたのは6年前に別れた君の顔だった。

 

 

高校の入学式、一目惚れをした。

恋愛に無頓着だった自分が初めて本気で人を好きになった瞬間で、最初で最後の一目惚れだった。

 

クラスが一緒で、席が隣だったから君と仲良くなるまでにそう時間はかからなかった。

 

「名前は?中学どこ?部活なにしてたの?」

 

いつも澄んだ瞳で話しかけてくれる君にどんどん惹かれていく自分がいて、学びたかった授業を受けることよりも、夢を持って入った部活よりも、君と話すことが何よりの楽しみになっていた。

 

 

 

桜が散っていく頃、君に告白した。

「絶対に幸せにします。」

なんて言って。

 

 

 

高校生の恋愛なんてって言葉をたまに聞くけど、僕たちにはそれが全てだった。

 

わざわざ遠回りをしてまで一緒に帰って、毎日毎日電話して、休みの日には色んなところに行って、夜にはお互い親に内緒で家を抜け出して会ったりしたね。

 

お金がなくても自由がなくても確かに幸せと言えるものがそこにはあった。

 

それなりに喧嘩もした。

大体はLINEで喧嘩。会っては仲直り。それの繰り返し。

どんなに傷つけあっても別れようとは言わなかった。

会うと楽しくて、どうしようもないくらい好きで、これが運命だとさえ思っていたんだ。

 

 

 

三年になり進路を決める時期で、僕は夢のために上京することが決まっていた。

君も僕と一緒にいるために、東京で進路を探してくれていたね。

でも大人はそれを許さなかった。

 

君の親はとても素敵な人だったけど、厳しい人だった。

高校生の恋愛感情で進路を決めるなと。君は地元に残ることになった。

 

僕は地元に残ることは一切考えていなかったが、その話を聞いて地元に残ることに決めた。

何よりも一緒にいたかった。

 

「私のことよりもちゃんと夢のことも考えてね。」

 

君はそう言ってくれていたね。

 

 

僕は気づけなかったんだ。

僕の選択が君を苦しませていたことに。

 

 

 

 

「別れよう」

 

 

 

 

突然だった。世界が止まった気がした。

 

 

その言葉だけを言い、去っていく君に僕は何も言えなかった。止められなかった。

 

 

 

いつもの帰り道、君の家の前。いつも

「バイバイ、また明日ね」

と言っていた場所で、最後のさよならをした。

 

 

 

LINEは帰って来なくて、学校で話すのもなんとなく気まずくて、一度も話すことがないまま卒業式をむかえた。

最後に話したかった。でも勇気が出なかった。

君と会うのはこれで最後だった。

 

 

僕は結局上京することに決めた。

地元を離れる時、見送りに来てくれた友達の中に君の友達がいた。

「別れてからもずっと僕君のことが好きって言ってたよ。夢を追いかけて欲しくて急に突き放したんだと思う。」

僕はこの言葉が忘れられない。

 

 

 

 

地元を離れて6年。僕は夢を叶えて、彼女もいてそれなりに幸せに生活している。

それでもたまに君のことを思い出す。

一昨日食べたのものは思い出せないのに不思議なもので、君と過ごした日々は昨日のことのように鮮明に覚えている。

 

僕が初めから地元に残ることを決めていたら、卒業式の日勇気を出して話していれば、僕の隣には君がいたのかな。

 

君のインスタグラムには彼氏と楽しそうに笑う君がいる。

僕は僕で、今の彼女を大切にし結婚していくのだろう。

 

 

 

「運命の人は2人いる。1人目は愛することと失うことの辛さを知って、2人目は永遠の愛を知る。」

 

 

間違いなく君は運命の人で、でも2人目ではなかった。